【事例紹介】株式会社龍角散が生薬の国産化を企業版ふるさと納税で支援―令和6年度大臣表彰受賞―

企業版ふるさと納税とは、企業が地方自治体に寄付を行うと税制優遇を受けられる仕組みで、2016年にスタートしました。制度を通じて、全国各地で様々な地域活性化の取り組みが行われています。内閣府では、2018年度から特に優れた成果を出した自治体と企業を表彰しており、2024年12月には、今年度の表彰式が開催されました。
この記事では、表彰された企業の1つである株式会社龍角散の取り組みについてご紹介します。
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令和6年度企業版ふるさと納税大臣表彰を受賞「ゴホン!」でおなじみの老舗製薬会社中国依存からの脱却を目指し、国内生産体制を構築地域と連携した包括的な支援体制企業版ふるさと納税を活用した、各自治体の地域活性化成功事例秋田県八峰町での取り組み秋田県美郷町での取り組み大分県杵築市での取り組み地域活性化への多面的アプローチ積極的な情報発信による相乗効果地域と企業が創る持続可能な未来
令和6年度企業版ふるさと納税大臣表彰を受賞
2024年12月に、企業版ふるさと納税の大臣表彰式が行われました。株式会社龍角散(以下、龍角散)は企業部門でこの大臣表彰を受賞しています。
龍角散による企業版ふるさと納税を活用した生薬原料の国産化と地方創生の取り組みが評価されました。
「ゴホン!」でおなじみの老舗製薬会社
龍角散の創業は江戸時代末期にさかのぼり、秋田藩の御典医であった藤井正亭治が喘息に苦しむ藩主のために漢方・蘭方の長所を取り入れて開発した「龍角散」に始まります。
現在は年商260億円、従業員100人を擁し、のどカテゴリーでシェアトップを誇ります。龍角散の特徴は、ほとんどの製品に生薬(医薬に使う原料/薬用植物/薬草)を使用している点にあります。
中国依存からの脱却を目指し、国内生産体制を構築
医薬品業界では、生薬原料の約80%を中国からの輸入に依存していますが、中国国内需要の拡大やカントリーリスクにより、価格高騰や安定供給が困難になっているという課題を抱えています。
特に医薬品は、承認された原料以外への変更が認められないため、原料の安定確保が重要となっています。そのため、龍角散は原料を国内で生産する体制の整備を始めました。
地域と連携した包括的な支援体制
龍角散は、公益社団法人東京生薬協会を核として、各地の自治体と連携協定を結び、生薬栽培の支援を展開しました。
具体的な取り組みとして、指導員の3-5年の派遣による栽培技術指導や、試験栽培の実施後の一般農家への展開を行っています。
高齢化する農家への配慮として、できる限り自動化を進めている点も特徴的です。
企業版ふるさと納税を活用した、各自治体の地域活性化成功事例
龍角散は各地で生薬に関連して取り組みを進めています。
秋田県八峰町での取り組み
- 2014年から龍角散向けのカミツレやキキョウなどの生薬植物栽培を開始
- 栽培管理機械や調製乾燥施設の整備支援
- 全国放送のCMによる地域PR効果で知名度が向上し、視察や収穫体験の申し込みが増加
- 小中高生や福祉団体向けのカミツレ摘み取り体験プログラムの実施
- 規格外品を活用した特産品開発や町内飲食店での薬膳料理メニュー開発
秋田県美郷町での取り組み
- 「生薬の里 美郷構想推進事業」として「まち・ひと・しごと創生美郷版総合戦略」を推進
- 薬用植物栽培推進基金を設立し、栽培農家への支援体制を構築
- キキョウの生産・出荷が順調に成長
- 平場の森公園の整備など、地域インフラの充実
- 健康膳の普及による地域振興
大分県杵築市での取り組み
- 2015年から薬用植物栽培のノウハウを構築
- 市民・農業従事者向け薬用植物基礎講座を全9回実施
- 67名の栽培ボランティアが参加する地域活動へと発展
- キキョウやカワラヨモギなどの薬用植物の出荷量が増加
- 休耕地や空地を活用した栽培による農地の有効活用
地域活性化への多面的アプローチ
この生薬栽培のの取り組みは、単なる原料調達にとどまらず、地域の雇用創出、教育支援、特産品開発など、多角的な地域振興策として機能しています。
特に、収穫後の生薬原料の乾燥調製作業の民営化体制構築や、規格外品を活用した特産品開発、薬膳料理メニューの開発支援など、地域経済の活性化に寄与しています。
積極的な情報発信による相乗効果
龍角散は、これらの取り組みを全国に発信するため、様々な広告展開も実施しています。
秋田県知事が出演するCMや、地元の自然を活かしたプロモーション動画の制作、中国人を起用したCMなど、多角的な情報発信を展開しています。
龍角散は現在までに累計5,734万円の寄付を行い、秋田県八峰町をはじめとする自治体の地方創生に貢献しています。
2018年4月から2021年3月までの事業期間で総事業費2,033万6千円、寄附額1,600万円(2020年9月末現在)を投じるなど、持続的な支援を続けています。このような地域に根差した持続可能な地方創生モデルの構築が、今回の大臣表彰につながりました。
地域と企業が創る持続可能な未来
龍角散の企業版ふるさと納税を活用した取り組みは、地方創生の優れたモデルケースとして高く評価されています。
医薬品原料の安定供給を目指した生薬の国産化という企業ニーズを出発点としながら、雇用創出、教育支援、特産品開発など、地域の様々な課題解決にも貢献しています。企業、自治体、農家が互いにメリットを享受できる持続可能な連携モデルを構築しているのも評価された理由の一つかもしれません。
この事例は、企業版ふるさと納税を活用した地方創生の新たな可能性を示すものとして、今後も注目されていくでしょう。
▼そのほかの令和6年度大臣表彰受賞事例
参考
龍角散の取り組み|株式会社龍角散
龍角散|家庭薬ロングセラー物語|日本家庭薬教会
秋田県 企業版ふるさと納税の活用事業について
薬用植物をまちの名産品に
秋田県八峰町の生薬栽培を支える町長の想い
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