【事例紹介】企業版ふるさと納税令和6年度大臣表彰受賞 青森県弘前市 弘前援農プロジェクト

企業版ふるさと納税とは、企業が地方自治体に寄付を行うと税制優遇を受けられる仕組みで、2016年にスタートしました。制度を通じて、全国各地で様々な地域活性化の取り組みが行われています。内閣府では2018年度から、特に優れた成果を出した自治体と企業を表彰しており、今年も各都道府県から推薦された事例について審査が行われ、表彰式が開催されました。この記事では、表彰された地方公共団体の1つである青森県弘前市の取り組み事例を紹介します。
 
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令和6年度企業版ふるさと納税大臣表彰を受賞

2024年12月に、企業版ふるさと納税の大臣表彰式が行われました。青森県弘前市は自治体部門でこの大臣表彰を受賞しています。
企業と行政が綿密に連携を取りながら進めた「ひろさき援農プロジェクト」の取り組みが評価されました。
内閣府の企業版ふるさと納税ポータルサイトでは、表彰式でのプレゼンテーションの動画も公表されています。
 
 
 

日本一のりんごの街、弘前

弘前市は、国内で流通されるりんご生産量の4分の1を占める、日本一のりんご産地です。弘前大学では育種研究によって、「こうこう」や「紅の夢」などの新品種が開発されています。
また、2300本のりんごの木が植えられた弘前市りんご公園をはじめ、街全体でりんごにこだわったまちづくり「りんご色のまちHIROSAKI」を展開し、アップルパイは地域の名物です。春には桜の開花に続いてりんごの花が咲き誇り、「弘前りんご花まつり」が開催されるなど地域に深く根付いています。
 

課題に直面する弘前のりんご産業:人手不足と環境変化への挑戦

りんご産業が経済を支える一方で、環境問題や人手不足、高齢化の課題に直面しています。
2020年度時点で生産者の平均年齢は63.8歳に上昇し、経営体数は平成22年の約6,500から令和2年には約4,700へと、約10年で2,000近く減少しました。
またアンケート調査によると、約8割の農家が人手不足に悩んでおり、作業員について「将来はいなくなる」と答えた農家が46%、「すでに足りていない」という回答が30%に達しています。
特にりんご栽培は、労働時期が短期間に集中するため、通年の雇用が難しく人材確保が困難な状況です。農閉期はりんご農業者の家族で労働者を確保しています。
これに対し弘前市は、農業里親制度や無料職業紹介所の開設、アプリ「daywork」の導入、市職員の兼業許可など、独自の対策を実施してきました。
りんご産業が抱える環境問題には、温暖化による着色不良や日焼け、初夏や晩秋に気温が急に下がり、農作物や果樹などにもたらす被害や、高齢化した生産者の引退による園地放棄の問題も深刻化しています。
 

新しい地域での価値創出ー「弘前援農プロジェクト」のあゆみ

弘前市は、農家以外の人たちにもりんご産業に関わってもらいたいと考え、また、りんご産業の問題を解決するために、令和2年度に「りんご課」を設立しました。
その年から、りんごを使ったお酒「シードル」の製造を行っている株式会社NIKKAウヰスキーの弘前工場に、市が「農家のりんご収穫を手伝ってほしい」と依頼し、NIKKAウヰスキーの社員が実際に農家の収穫作業を手伝うことになりました。
さらに、令和4年度からは、シードルを販売する株式会社アサヒビールも収穫支援に加わるようになりました。
 
この連携をきっかけに両社は弘前市のりんご産業・シードル産業の活性化のため、ふるさと納税を活用した寄付を開始しました。株式会社JTBもこのプロジェクトに参画して、企業版ふるさと納税の寄付金をもとに誕生したのが「弘前援農プロジェクト」です。
 
プロジェクトの実現に向けて、関係者は月1回の対面会議やリモート打ち合わせを重ねながら、単なる官民連携よりも、新しい地域での価値を創出することを意識してプロジェクトが行われました。
その結果、両社の援農ボランティアを全国規模で募集する取り組みへと発展し、さらにNIKKA製品に弘前市の名前を入れた「弘前生シードル」を販売するように。地域との深い絆が生まれました。
 

全国から農家を支援、人気のりんご収穫の援農体験プログラムツアー

弘前援農プロジェクトは、参加者が弘前市内のりんご農家で収獲作業を手伝うツアーを実施しています。現地の交通費や昼食代は市が助成します。
参加者は、プロジェクトのロゴが入った雨がっぱを着用し、用意された長靴を履いて収穫作業に臨みます。午前と午後の合計6時間でグループに分かれて収穫作業や葉取り、運搬作業などを行い、地域の農家の業務を手伝います。
学生から60-70代まで幅広い世代が参加するこのプログラムでは、地域との交流を深めるため、100泊限定で3000円の宿泊補助も実施しています。さらに、参加者にはニッカウヰスキー弘前工場で製造された「ニッカ弘前生シードル」がお土産として提供され、弘前のりんご産業への理解を深める機会となっています。
2023年度の実績では、参加者が282名でした。うち県内の参加者は、全体の3割を占めた87名・山口や京都など県外からの参加者は全体の7割を占めた204名でした。また、募集に対して2年連続で定員を上回り、2024年度には240名の募集に対して319名の募集があり、街歩き観光・日帰り温泉のオプションも用意するなど、参加者のニーズに合わせたツアー内容となりました。
 

農家とボランティアの絆 - りんご収穫体験がつむぐ新たな交流

弘前のりんご農家でのボランティア活動が、参加者と農家の双方に新たな価値をもたらしています。
普段は限られた人々との交流が中心となる農家にとって、様々な業種や地域から訪れるボランティアとの出会いは、新鮮な刺激となっています。異なる視点や経験を持つ人々との対話を通じて、コミュニティに活気が生まれているといいます。
一方、ボランティア参加者からは、弘前の魅力との初めての出会いや、りんご収穫作業への没頭が新鮮な体験として好評を得ています。実際の農作業を通じて、農家の方々の日々の努力を実感し、自らが収穫したりんごへの特別な愛着も生まれているようです。
活動後も、参加者から農家へお礼の手紙や年賀状が届き、地元の農産物を贈り合うなど、継続的な関係が育まれています。
 

企業と農業を結ぶ - 弘前市が『ひろさき縁農サポーター制度』を創設

弘前市は、企業と農家の新たな協働の形を目指し、独自の「ひろさき縁農サポーター制度」を立ち上げました。本制度は、援農活動に積極的に取り組む企業や団体を公式に認定することで、農業を軸とした持続可能な地域連携の構築を目指しています。
 
  • 援農活動や情報発信に取り組む企業を「ひろさき縁農サポーター」として認定
  • 認定企業には専用の認定証とロゴマークの使用権を付与
  • 現在までにニッカウヰスキーやアサヒビールなど3社が登録
 
弘前市は本制度を通じて、農業の持続的な可能性を高めるとともに、企業の地域参画を促進することで、地域社会全体の活性化を目指しています。
 

官民で地域の新しい未来を拓く - 地方創生の新モデル

「ひろさき援農プロジェクト」は、企業と行政で協働することによって、地域に価値を残すことを目指しています。シードル製造から生まれた、企業と行政の新たな連携は、従来の寄付をしあう・寄付を受ける関係を超えて、地域に持続的案価値を創造する新しい形を示しています。
 
▼そのほかの大臣表彰受賞事例
【自治体】
【企業】
 
参考:
弘前大学 弘前ってどんなところ?どこか懐かしい街、弘前を行く
一般社団法人東北観光推進機構 弘前りんご花まつり
JR東日本 【第1回JR東日本地域共創アワード最優秀賞】持続可能なりんご産業発展に向けた取り組み<青森県弘前市>
株式会社モキ製作所 青森県弘前市、りんご産業での環境負荷低減への第一歩
株式会社JTB 日本一のりんごの街・青森県弘前市が官民連携で取り組む、本物の体験ができる「援農ボランティアツアー」
弘前市 【ひろさき援農プロジェクト】援農ボランティアツアー
株式会社NIKKA WHISKY 会社案内
株式会社陸奥新報社 71人がリンゴ収穫 弘前で援農ツアー
 
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